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【RTT2】Operation AFTERNOON TEA【Ep.00】

軍法会議

私と部下は、地球連合軍月面基地であるルナベース6の一室にいた
ここで私たちの軍法会議が行われた。
命令に背き、バイド兵器廃絶を訴える市民団体への攻撃を拒否したためだ。
会議の議長が何故命令に従わなかったのかと訊いてきた。私はこう答えた。

『民主主義の軍隊は、民衆を護るべき立場にある筈です。
 自国民に銃を向けるなど、たとえ抗命罪に問われようと従う事はできません。自分の行いに後悔などしておりません。
 今、この場に立っているのは、寧ろ非人道的な命令を発した上官であるべきだと思うのですけれど?』

私と部下は、命令違反の罪で有罪となり、処刑を言い渡された。
内心、訓戒程度では済まないとは思っていた。更迭、降格までは覚悟していたが、処刑と聞いて耳を疑った。
──少し言い過ぎたか。否、処刑になるのであれば、もう少し言っておくべきだった。
私たちは、月面の別のクレーターにある収容所に護送されることとなった。

しかし護送中、部下達が呼応して警備兵に襲い掛かり、乗っていた月面走行車両を乗っ取った。
そのまま宇宙港に向かい、発信準備をしている輸送艦を見つけた。
私は部下に輸送機に隠れるよう命じたが、事態が好転しないと悟り、輸送機と艦載機数機を奪って基地から脱走した。

不本意ながら、我々は逃亡の旅をすることとなった。今後はその足跡を残すため、航海日誌を残すこととする。

M.C.0074,10,29
元特別連隊隊長
真銀堂 透流 大佐

続き  ***

「わたくし達の隊が“異能持ち”だって事、資料に記載は無かったのかしら?
 まぁ、今は、この機に乗じさせて戴きますけれど。」

小さく嘆息しながら、私──真銀堂透流は髪を撓らせて振り返った。私のドリル化した髪で抉られて、満身創痍の警備兵は、当分意識を取り戻しそうにない。
最初に警備兵へと飛び掛った副官──彼女の頭を「ぽんぽん」と、ねぎらうように撫でながら状況を確認する。

軍法会議で一旦下った判決が覆ることは無い。覆る要素も無い。大人しく投降しても、粛々と処刑されるだけだろう。
宇宙港に向かい、輸送艦を手に入れ、まずは月から離れなくては。
できれば、地球連合の支配の手が及んでいない…そう、木星以遠まで、離れられれば──
……って、木星といえば、グランゼーラ革命軍の本拠地だ。虎から逃れるために、狼の群れに突っ込むようなものではないか。

そんな事を考えているうちに、軍港が見えてきた。
「……さぁ、参りましょうか。」
撫でているうちに寝入ってしまった副官を起こさないように、小声で呟くと、部下たちは顔を見合わせ、力強く頷いた。

  ***

異能者で構成される我が特別連隊は、白兵戦において全面的優位を誇る。例えば、ある種の異能者は生身で炎や冷気、雷撃や衝撃波などを発生させる。しかし、その優位は銃を携行するだけで容易に埋まる。そんな瑣末な事ではない。
雷撃や光条による攻撃でさえ、見切り、躱す反応速度。異能による攻撃を肉弾戦で受け、弾き、相殺し、大抵の怪我であれば即座に回復し得る頑強さ。異能者に標準的に備わっている、基礎能力の高さこそが連隊の強さを支えている。

「──何故、こんな輸送艦の艦長などを…?カーディス少将。」
「今は中佐でしてよ。真銀堂大佐。」
「残念ですが元大佐ですわ、議長。」

艦橋で、互いに螺旋(ドリル)を突きつけあう形で対峙する。
小さな輸送艦一つに苦戦するのも道理。相手も異能者部隊だったのだから。
私の母校──聖ライラ学園の2年上級。生徒会にあたる十二人議会の議長だった人物だ。私の階級(大佐)も年齢不相応に高いけれど、最年少で将官に就任したと、ちょっとした騒ぎになったものだ。私と同タイプの、螺旋を操る能力者。学生時代はついに一度も敵わなかった相手でもある。艦隊を任され、火星方面に駐留していたと聞いていたが。

時間は刻一刻と過ぎていく。勝機は薄いが、ここで一戦交えるほかは無いだろうか…?
私が覚悟を決めたとき、元少将は異能の力場を解除すると一転して投降を口にした。

「貴官が乗組員の安全を保障するのであれば、武装を解除し、投降致しましょう」
「…どういう、お心算でしょうか?」
「この艦をどうするか…それを決めるのは貴女でしょう?元大佐。」

艦長の真意は量りかねるけれど、輸送艦と艦載機数機からなる一艦艇。その指揮権をそっくりこちらに委譲された形となった。“艦長を人質に取られ、やむなく”かつての学友たちも私の指揮下に入る、らしい。副官をはじめとした部下達は、旧交を温め、喜んでいるように見える。艦内の雰囲気自体は悪くない。

私が有能さを示し続けるなら。もっと率直に“勝ち続ける限りは”信用して良いだろう。逆に言えば、私が、自分自身が思う以上に無能であったなら、彼女たちを付き合わせる事も無いとも考えている。

輸送艦は離陸し、小さくなっていく宇宙港を眺めながらそんな事を思った。おそらく、間も無く追跡部隊がやって来るだろう。
出撃の準備を整えておくよう、副官であるクレス中尉相当官に命じると、私は自分の乗る機体を物色すべく、ハンガーへと向かった。

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